「習慣」となっている行動は、自分の意思でいつでも始めたり止めたり出来ると考えている人が多いでしょう。
これは、ある程度正しいと言えます。新しい習慣を身に付けたりこれまでの習慣を変えることは、完全に自分次第です。しかし、私たちの健康習慣は、思っている以上に私たちを取り巻く文化や風習の影響を受けています。
習慣的行動は、無意識に行われます。実は、習慣は進化によって手にした特性で、私たちは深く考えたり脳の機能を多く使ったりすることなく、決まった行動をとることができます。 これによって、より複雑な作業や動きも脳を大量に消費せずにこなすことができるのです。
習慣は個人的なものであると思われがちですが、実は文化や風習によって形づくられています。たとえば食事を考えてみてください。日本に生まれ育った日本人で、「毎日のスウェーデン料理が欠かせない」という人はあまりいないでしょう。このように文化や風習に形づくられている習慣を変えることは、思っている以上に難しいものです。
もしあなたが喫煙者なら、禁煙によってその習慣を断ち切ることで認知症のリスクを大幅に下げることができます。 考えてみてください。そもそも、なぜタバコを吸うようになったのですか? タバコを手にとるようになった背景には、環境の影響が大きいのではないでしょうか。
たとえば米国の場合、人種別の喫煙者の割合ではヒスパニック系の喫煙率が際立って低いことが分かっています (ヒスパニック系 = 10%、白人 = 17%、黒人 = 17%、アメリカン・インディアン = 22%)。これは、家族・親族の関係に対するヒスパニック文化の価値観である「ファミリスモ (Familismo、家族主義)」が大きな理由であると考えられています。複数の調査において、ヒスパニック系米国人は「家族が喜ぶから」禁煙したと回答していて、十代の若者たちは「家族が許してくれない」ことがタバコに手を出さない大きな理由になっています。
一方で、喫煙が「男らしい」イメージと結びついている文化もあります。ほとんどの文化圏で男性の喫煙率は女性よりも高く、たとえば中国、韓国、インドネシアでは男性の喫煙率は女性の 10 倍に上ります。日本でも、喫煙が男らしさや一部の労働環境に結び付けられることが多いようです。
もちろん、これは文化的に喫煙習慣がなくなると言っているわけでも、男性の喫煙者がゼロになることなどないと言っているわけでもありません。ここで言いたいのは、あなたを取り巻く文化と風習にあらためて目を向け、あなたに何が求められているのか、私達の習慣にどのように影響を与えているのかを知ることの大切さです。認知機能の向上を目指して禁煙をしたいと考えているなら、その障害になるかもしれない文化的な要因を理解することが禁煙の成功につながるでしょう。禁煙に限らず、いま身に付いている習慣を変えたいと思ったら、そもそもの習慣が身に付いた理由である文化的要因を理解することが成功のカギになります。