心身の諸機能には、加齢に伴いさまざまな変化が起こります。中でも頬のシミや関節硬化などと違い、認知機能の衰えは自覚しづらい老化現象です。徐々に認知機能は低下するといわれています。ある日突然深刻なケースに気づき、不安になるケースも少なくありません。
加齢に伴うもの忘れと認知症の違いはなんでしょうか。 これは必ずしも明快ではありませんが、いくつか重要な違いがあります。
認知機能がどのように変化するのか、健常状態の正常範囲、MCI や認知症の症状などをご紹介いたしましょう。
ご存知のように、歳を取るにつれて脳の血管内の炎症性反応や、脳血流の低下、脳の萎縮などの老化現象が見られます。これらは一般的な加齢性の変化であり、認知機能にもわずかな変化をもたらします。 加齢に伴う認知機能の低下は、特定の認知領域の変化であり、人によって症状が異なります。一般的な例としては、思考力の遅延、注意力不足、記憶力の低下、複数の事柄を同時に処理する能力の低下、言葉を思い出せない、名前を覚えることが難しいなどの症状が現れます。認知機能力は 30 歳前後でピークに達し、その後、徐々に低下していきます。ですが歳を重ねたからと言ってすべての認知機能が衰えるわけではありません。語彙、読書、口頭記憶など機能は、年齢を重ねてもその能力が維持され、むしろ改善されるケースすらあります。
認知機能の変化が、正常範囲内の加齢性変化を超えた場合、軽度認知障害 (MCI) または認知症の疑いがもたれます。 MCI では、認知症における物忘れのような記憶障害が出るものの、症状はまだ軽く、正常な状態と認知症の中間と言えます。 MCI の患者は、認知症を発症するリスクが高くなりますが、適切な対策をとることで改善を図ることも可能です。
認知症では、日常生活を送ることが困難になるほど深刻な物忘れや、その他の症状を引き起こします。 認知症の半数以上は、アルツハイマー型認知症です。その他には、血管性認知症やパーキンソン型認知症などがあります。 アルツハイマー病の特徴は、脳内の神経ニューロン間の連結の消失です。これが海馬などの記憶に関連する領域に広がり、言語、推論、社会的行動などに必要な領域にもおよびます。 健康であったニューロンが、効率よく機能しなくなり、時間の経過とともに、相互に機能して連絡し合う能力を失い、最終的には死滅します。 これらが原因で、MCI 患者が重要な予定を忘れてしまったり、一部の機能に障害を引き起こしたり、アルツハイマー病の患者が、お金に執着したり、徘徊を繰り返したりという症状が起こります。
ある程度の認知機能の変化は加齢性変化の正常範囲内ですが、名前を覚えるのが難しくなってきた、判断力の低下などの深刻な認知障害の症状が現れた場合は、専門の医療機関に相談してみましょう。