私たちの脳は、それぞれが唯一無二のものです。たとえ、一卵性双生児であっても、脳は同じではありません。

それはなぜでしょう?

脳の構造は DNA によって決定されるものの、経験によっても変化するのです。

脳の形成には、人間関係や能力、仕事や趣味など、様々な要素が関与するのです。例えば、ロンドンのタクシー運転手とバスの運転手に関する研究を見てみましょう。この研究では、参加者の認知機能を測定するために、脳の MRI を撮影し、参加者に認知・記憶・感情のテスト受けてもらいました。すると、バスとタクシーの運転手では、海馬の MRI に違いがあることが発見されたのです。また、各種テスト結果にも大きな違いがありました。

海馬は、空間記憶を司る脳の領域です。 空間記憶は、周辺の環境とその中に自分がどう位置するか、という情報を記憶します。また海馬は、物がどこにあるかを覚え、その情報を元に体を動かすよう指令を出します。

前述のバスとタクシー運転手に関する研究は、仕事柄、空間への絶え間ないアクセスを必要とすることが、脳の形成に関与したことを示しています。バスとタクシー運転手の海馬は、それぞれの仕事で必要なスキルを最大限に活用する事ができるように形作られていました。どちらも都市を移動する仕事ですが、周囲の空間情報を処理する方法は大きく異なり、そのため脳にも違いが現れたのです。

ではここで、少し目を閉じてご自身の海馬について考えてみましょう。自分の海馬はどんな能力を持っていると思いますか?例えば、看護師の方なら、海馬は手術室内での作業に熟達しているかもしれません。また教師の方なら、たくさんの子供達に曲がりくねった廊下を移動させたり、複雑な数学の問題を教える事に長けているかもしれません。幼い子供の親は、哺乳瓶や体操着、お気に入りのぬいぐるみなどを常に探しているため、非常に忙しい海馬を持っている事でしょう。

どんな人も、その人独自の生活をしており、その人特有の海馬を持っているのです。